2023年12月16日土曜日

私の葬送曲候補(1):マーラー第9番交響曲第4楽章

 私の年齢も50半ばを越え,そろそろ人生の終わりが見え始めてきた(人生百年時代などと言われるとまだ折り返し地点を過ぎたばかりなのだけれど)。引退後のセカンドライフも考えなければならないし,そろそろ独りの良い年頃なので終活を始めようかと考えている。

終活の項目のひとつに自分の葬式に流す曲を決めることがある。もうそんなことを考えるのか!?と思う人もいるとは思うけれど,日頃から候補曲を考えておかないと,いよいよというときに遺言に残すことができないと思い,よい曲を思いついたら記しておくことにしたい。

そこで第1番目に挙げる候補曲は,マーラー第9番交響曲の第4楽章である。誰だったか,自分の葬式にはベートーベンの英雄交響曲(第3番)の葬送行進曲(第2楽章)を流してくれと言っていたらしいけれど,私にはそんなヒロイズムもナルシズムもまったくない。とにかく静かに音楽が式場に流れていてくれれば良い。そう考えるとそれほど劇的な盛り上がりがない曲こそがふさわしい。そして悲しすぎないのがよい。そうして考えた末がマーラー第9なのである。

マーラーの第9番交響曲はマーラーがそう意図して作曲したかどうかは知らないけれど,静かにはじまる第1楽章から静謐な死の雰囲気に溢れた曲で,そのような印象は同時代の作曲家ベルクをはじめ,多くの人が述べているのだという。確かに私もそのようなイメージを持っている。最終の第4楽章は,少しずつ音階が変化する旋律がゆっくりと演奏されていくもので,曲を聴いていると気持ちがどんどん落ち着いていく。いや,気分が下降していくというべきか,ちょっと行き過ぎて負の方向にまで落ち込んでしまうような気もする。でも,それがいいのだ。そんな音楽,他に知らない。

秀逸なのは曲の終わり方。ラフマニノフの作品のようにタン・タカ・タンなどとリズムを刻んで勇壮に終わるのではなく,弦楽によるピアニッシモで奏でられた最後の一音がスーッと消えていって終了する。まさに私の最期にふさわしい曲だ。

この曲の問題は楽章がその最後を迎えるまでに30分近くかかってしまうこと。葬式の間,その曲の最後まで会場に流れることがないかもしれない。それがちょっと残念である(たぶん私の葬式は家族葬となるのですぐに焼香の時間は終わると思う)。

演奏としては,カラヤン&ベルリン・フィルもアバド&ベルリン・フィルも,そしてバーンスタインのニューヨーク・フィルやウィーンフィル,そしてベルリン・フィルとの録音といずれも素晴らしいものになっていて,私も以前はそのときどきの気分によって所有しているCDを聴いていた(最近は音楽そのものを聴くことが少ないので全然聴いていないけれど)。その中からどれかを選ばなければならないわけだけど,私のチョイスはバーンスタイン&コンセルトヘボウ管弦楽団の録音である。バーンスタインによるグラモフォンのマーラーシリーズのものが好きだ。第4楽章は至極ゆっくりと,そして美しく演奏される。この曲が私の葬式場に流れることを想像すると,どこか甘美な感じもする。その式場に私がいないことが至極残念だ。


#正直,私の葬式はない可能性も高いのですが...


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