2023年12月25日月曜日

すべて忘れてしまうから,「そこそこ」の幸せ

 TVドラマ「すべて忘れてしまうから」(テレビ東京)が終了した。私としては原作を含め,とても好きな作品だった。

主人公は,TVの美術下請け会社に勤めながら小説を書いているちょっと情けない男で演じるのは阿部寛。彼は「下町ロケット」の主人公のような熱血漢を演じても素晴らしいが,こうした情けない男を演じてもピカイチである。今回も煮えきらない微妙な小説家を絶妙に演じている。私はこちら側の阿部寛も大好きである。そして彼の彼女がある日突然いなくなる。そんな彼の周りで起きる切ないエピソードが散りばめられているドラマである。

数々のエピソードは,「燃え殻」という著者が書いた「すべて忘れてしまうから」というエッセー集に収められているものから選ばれていて,ドラマの中にうまく溶け込まされている。その一方で彼女が理由も分からず失踪するという作品を貫く経糸のストーリーは番組オリジナルである。彼女が失踪することによって,主人公は少しずつ変わっていくのだけれど,その彼女を演じたのが尾野真千子。彼女も素晴らしい。失踪した彼女は半年後に戻ってくるのだけれど,彼女も種々な経験から以前とは少し変わってしまっていて,結局二人は別れてしまう。そこが大人苦い。

その二人が別れるエピソードは最終回の一つ前の回で描かれる。ある日(半年後?)ひょっこり戻ってきた彼女を主人公は何も聞かずそのまま受け入れ,また一緒に住み始める。そして二人で海に旅行に出かける話が描かれる。その話が本当に切ない。その旅行では(うろ覚えだけど)「そこそこ」美味しいものを食べて,「そこそこ」楽しい経験をする。この「そこそこ」というのが素晴らしい。それぞれの感動が「そこそこ」だからこそ,最大の記憶はなにげなく二人で過ごした時間になる。しかし,そんな観光や食事が目的ではない「二人で過ごす時間」が最高の思い出になった大人の旅行が,彼女の決別の決意のきっかけになっていて,見ていて胸が締め付けられる話だった。

大人ってそうだよな,と思う。若い頃は観光や食事がメインの楽しみになって当然なのだけれど,トシをとると二人で何気なく過ごす時間こそが貴重なものとなる。「そこそこ」の幸せだからこそ,時間を大切にできる。そんな大人の旅行に憧れをもたせてくれる話だった。

残された主人公はその別れを受け入れて,日々の生活を続けていく。大人苦い。本当に大人苦い。でもだからこそ見ているものの心が動く。この作品はずっと忘れずにいるような気がする。良いドラマだったなぁ...

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