2024年2月12日月曜日

世界のオザワ

 というわけで,小澤征爾指揮,ボストン交響楽団の演奏を聴くことができたのでけれど,その後は彼の演奏を生で聴いたのはたぶん一度あったかないか,記憶が定かでない。

「たぶん」,なのだけれど,水戸芸術館で吉田秀和が館長を務めていたときに水戸室内管弦楽団を小澤が指揮したのを聴いたような気がする。演奏曲目は,ストラヴィンスキーのプルチネルラだったような...この記憶が妄想だとするとずいぶん具体的な内容だなぁと思うけれど,他の演奏曲目がなんであったかも覚えていないし。自信は全くない。

私が持っている小澤征爾の指揮に対する印象は,純音楽的な非常にきれいな演奏になるというものである。ベートーベンやブラームスの交響曲でさえ,感情控えめに美しく磨き抜かれた純音楽的な響きをもって演奏される。彼の演奏は,ちょうどジャパニーズウィスキーに例えられると思う。磨きに磨き抜かれた精妙な美しさ。たしか彼がまだ壮年の頃のインタビューで「日本人が西洋のクラシック音楽を理解できるのか」と尋ねられて,ずいぶんナーバスになっていた映像を見た記憶がある(ついでにいうと,別のヨーヨーマのインタビューで同じ質問をされていたのを見たことがあって,マは動揺して席を立っていたような記憶がある)。そのとき小澤が何を答えたのかもう覚えていないのだけれど,結局,西洋音楽がグローバル化することの意味を理解して彼が導き出した答えがこの純化された演奏なのだと思う。

さて,ここで小澤の録音で私のオススメを紹介したい。まずはサイトウ・キネン・オーケストラを指揮したブラームスの4つの交響曲とハンガリー舞曲の録音が好きである。初めて聴いたときに日本人のオーケストラなのに世界レベルな感じがした(よくわからないけれど,あくまでも印象で)。第1番交響曲は重厚というよりも淀みない美しい音楽という印象がするし,お涙頂戴の第4番交響曲でさえも綺麗さ,純粋さが感じられる演奏である。まさにジャパニーズウイスキー。また同録されているハンガリー舞曲1番のノリノリ感がいい。

次にオススメしたいのは,ベルリン・フィルとの録音によるオルフの「カルミナ・ブラーナ」。小澤征爾のほとばしるエネルギーが感じられる演奏になっている。彼の熱い演奏も魅力的なのだ。合唱団が晋友会というのも珍しい。

別な形でオススメしたいのは,村上春樹が小澤にインタビューした「小澤征爾さんと、音楽について話をする」という本。村上春樹はクラシック音楽に造詣が深く(少なくとも私より),ファンとしての立場の話もあるし,同じ芸術家としての話もある素敵な本である。

これは,出典不明なエピソードなのだけれど,同年代の指揮者である山本直純が若い頃に小澤に,自分は国内で底辺を広げる仕事をするから、小澤は海外へ行って頂点を目指せと言ったという話が好きである。山本は「オーケストラがやって来た」を続け,寅さんのテーマなどを作った。そして小澤はウィーン国立歌劇場の音楽監督まで昇りつめ世界のオザワとなった。お互い,その言葉を果たしている。そんな二人の人生が(どちらも)素敵だと思っている。

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