「自分の人生に大きな影響を与えたものはなんですか?」という質問の回答を考えていて,意外に私の人生・考え方に大きな影響を与えている物語があるということに気づいた。
それは,「猫の妙術」である。Wikipediaによれば成立は18世紀初めらしい。大ネズミを退治するために,近所のいろいろな猫が借り出されてくるのだけれど,ことごとくうまくいかない。しかし,最後にのっそりとした古猫が登場しあっさりと大ネズミを捕えてしまう。その夜,猫たちがあつまり,各猫がおのれの達している武術の境地を披露しつつ古猫に教えを乞うという話である。
初めて私がこの話を知ったのは,たぶん大学時代によんだ大森曹玄の「剣と禅」に紹介されていたからだと思う。最後の古猫の話は荘子の「木鶏」に似ていて,たいへん興味深かった。その後も,甲野善紀氏の「剣の精神誌」にも同作品が詳しく紹介されているのを読んだりして,いろいろと考えるところがあった。
Wikipediaの解説を見ると,「武芸者の質も落ちた為に、分かりやすく書かれた兵法書」とあり,がっくりとするが,確かにわかりやすく漫画チックに書いてあるのが面白い。あちらこちらの流派の武術の伝書にこの話が含まれていたという話もあるから,それなりに定評があったものだとは思われる。
私も,確かに「ありがたい」と思って読む文章ではなく,漫画のように読んでいるけれど,そこに書かれている猫の境地には到底達していない。そう思うだけでもこの作品の価値はある。そして18世紀にしてこの武術の心境が述べられていること自体が驚きである。
私の武術に関する考え方を形成するうえで,影響を与えたことは間違いないと思う。未読の方にはぜひおすすめである(短い話だし)。
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