先日テレビを見ていたら,竹中平蔵が「核融合に期待する」と述べていてたいへん驚いた。高市早苗が以前から核融合に注目していて,JT-60SAのプラズマ点火式にも参加していたことは知っていたけれど,全然興味がなさそうな竹中平蔵がテレビで核融合について言及していたのを見て,現在の核融合の盛り上がりの大きさをあらためて感じたのである。
核融合炉は,最先端技術の粋を集めた巨大な工学的装置であり,もう半世紀以上も研究開発が進められている。現在の原子炉である核分裂炉がマンハッタン計画の原子力爆弾開発から数十年で実用化したのに対し,核融合炉はいまだ開発の途中にある。現在は,フランスに国際熱核融合実験炉ITERが2030年代半ばのファーストプラズマを目指して建設中であるが,ITERはあくまでも実験炉であり,発電炉としての実証はDEMO炉と呼ばれる次の実証炉で行われる計画である。つまり,まだまだ先の話なのである。
ところがこの2,3年,核融合関係の民間スタートアップ企業が世界のあちらこちらで設立されていて,日本でさえも数社が名乗りをあげ,この分野への投資が過熱していることが話題になっている。日本では企業による協議会が発足し,すでに50社以上が参加を表明しているという。さらに政府としても,核融合を10番目のムーンショット目標に選んでいて,国をあげてのサポートが期待されている。
私はこのように核融合が注目されることはたいへん良いことだと思っている。そして多くの資金がこの分野に流れ込むことも大いに結構だと思う。しかし,それが一時期のブームで終わることを大いに危惧しているのである。
1980年代~1990年代においては,核融合にもそれなりの予算がついて,常に開発が行われていた。核融合のプラズマ試験装置であるJT-60やLHDが建設されたけれども,装置が完成する頃には次の改造計画がすでに立ち上がって開発が進められていたものである。なぜなら,もちろんプラズマの性能を高めるために最新の知見を反映する必要があるからだけれど,それよりも予算を継続的に得るためであることが大きかった。それは人材を確保するためである。
核融合の研究開発を進めるためには,日本のトップメーカーに協力してもらわなければならず,またそのメーカーの中でもトップレベルの優秀な人材を出してもらわなければならなかった。当時は各社から研究所に多くの優秀な技術者が出向していて,共に研究開発,設計を進めていたものである。
しかし,核融合にお金がつかなくなる時期がそのあとにやってきた。核融合がお金を稼げない分野になってしまったとたん,優秀な人材は各社に帰って行ってしまった。なぜならば彼らは優秀なだけに,他の分野で多くのお金を稼ぐことができる人材だからである。多くの企業からの出向人が研究所から去って,別の分野に転換されていった。その結果起こったのが,核融合にかかわる技術の継承の断絶である。継承されていく技術の多くは,設計書や報告書に残るのではなく,参画していた各個人の経験として残されていくのである。その人たちが核融合の現場を去るということは,その技術が他分野に行ってしまう,あるいは消失してしまうことを意味する。
そして現在,新たに核融合に多額の資金が投入されたとしても,以前に去って行った人たちが戻ってくるわけでもない(多くの人は定年を迎えるだろうし)。各企業に残っていた技術のスキル,ノウハウはもうない。
また一から人を育てればよい,という話になるけれど,工学者を育てるには,そしてそれが核融合分野だった場合,多くのお金と時間がかかるのだ。核融合工学は経験工学の性格も強いので,また新たに知識と技術を蓄積していくにはたいへんな労力と時間を要することは想像にかたくない。そうした継承は,QSTやNIFSのプロパーの研究員,技術者たちが担ってきたはずだけれど,やはり企業の技術に頼る部分も多いのだ。
一時期に資金が大量に投入されるのも良いけれど,人材を確保し技術を育てていくためには,資金を継続的に確保していくことがなによりも大切なのだと私は強く思っている。今回の核融合への盛り上がりが一時のブームで終わらないよう,研究機関,企業の方はぜひ政府や投資家相手にうまく立ち回って欲しいと願っているのである。
#ITER計画自体も資金不足からどんどん計画が遅れていることが報道されている。ITERの運転開始は一体いつになるのだろうか。
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