2025年6月14日土曜日

マーラー交響曲第5番

 マーラーの交響曲の中で最もポピュラーなのは,第1番と第5番なのではないだろうか。

第1番は,私の記憶が確かならば,黒澤明監督の映画「乱」の予告編で第3楽章が流れていた。それが私のマーラー作品の初体験だったかもしれない。

大学に入学したとき(1980年代),一般教養科目で「音楽関係」の講義を受講しようと思って,その第1回目を聴きにいった。内容なんて全然覚えていないけれど,先生が「最近はマーラーも演奏会で取り上げられるようになってきた」と話したことだけはやけにはっきりと記憶に残っている。日本において,マーラー作品の演奏はその程度だったのである。

マーラー作品は,私は大好きだけれど,オーケストラ構成が大規模になり,ポピュラーなメロディーもそんなにないから,一般の人たちに浸透するまでに時間がかかったのではないだろうか。第8番なんて「千人の交響曲」なんて言われるくらい大規模だし。

しかし,マーラーの有名な言葉,「私の時代がやってくる」の通り,現在はマーラーは演奏会に多頻度で取り上げられる人気作品ばかりである。私もこれまで,3番,4番7番を生演奏で聴く機会に恵まれている。ただ,マーラーを聴きにいくのは比較的クラシックの固定ファンで,まだまだ一般に十分に受け入れらているようには感じられないのも正直なところである。

そんなマーラーの交響曲であるが,第5番についてだけは,いやその第4楽章だけは,人気曲になった時期がある。もともとこの曲の第4楽章「アダージョ(アダージェット)」は,映画「ベニスに死す」で用いられたとかで,ある程度知られていたらしい(私は見たことがないけれど)。曲自体は非常にゆっくりとした美しいメロディーをもっており,ロマンティックなBGMとしては最高である。

しかし,この曲を有名にした最も大きな出来事は,「アダージョ・カラヤン」なる,カラヤン指揮の複数の局の美しい緩徐楽章や小品を集めたCDが発売され,この作品集が世界的に(もちろん日本でも)セールスをあげたことである。1995年の頃らしい。今では,アダージェットを聴いて「それだ」とわかる人は,またずいぶんと少なくなっていることだろう。

第4楽章以外はどうかといわれると,たぶん知っている人はほとんどいないだろう。。。不吉なトランペットのファンファーレから始まる第1楽章はかっこいいからぜひ聴いていただきたいのだけれど。

地上波のテレビドラマでこの曲の一部が流れたこともあるのだけれど,こちらはあまり話題にならなかった。このドラマは「それが答えだ!」(1997年)である。三上博史主演の天才指揮者がわがままが原因でポストをなくし,日本の田舎の音楽部の顧問になって過ごす時間を描いたもので,当時まだ若かった藤原竜也や深田恭子が高校生役を演じている(ついでに藤原紀香もピチピチのお姉さんとして出演している)。萩原聖人,羽田美智子,酒井美紀が三上博史を囲んで騒動が起きていく話で,あまり視聴率は上がらなかったみたいだけれど,私は楽しく見ていた。

確か,最終回。三上博史がプロのオケを振るシーンがあったのだけれど,その曲がマーラーの第5番だった。終盤,最終楽章のフィナーレの場面があり,三上博史の指揮姿が映った。そこで私が思ったのは,ちょっとリズムを刻みすぎの振り方じゃないの?ということである。もしも皆さんがこのドラマを見ることがあったら,ぜひ確認してほしい。でもこのドラマでも第5番が有名になることはなかった。。。

マーラーが予言した通り,彼の作品が演奏会で演奏される時代にはなったが,一般の人々が口ずさむほどポピュラーになるまでは,まだ時間がかかりそうである。長大な交響曲が多いマーラーだけれども,第5番はその中でも演奏時間が短く,曲もわかりやすいので,マーラー世界の入門作品としてはもってこいなのである。おススメ曲である。

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