日本刀の斬り方に,袈裟斬りというものがある。自分の右側に刀を振りかぶって左下側に斜めに斬り下ろす技である。斬られる方からみると,自分の左肩から右脇腹にかけて斜めに斬られることになっていて,ちょうどお坊さんが着る袈裟と同じように左肩から右脇腹に斜めの軌道を描くことになるのが特徴である。
現在の剣道では相手を真っ直ぐに斬り下ろす正面打ちが重視されていて,防具の面を外して肩から袈裟斬りしてもたぶん有効打とは認められないので,試合ではほとんど見ることができない(と思う)。
しかし,この斬り方は斬る方の人間の身体的特性によくあっていて,剣を真っ直ぐに斬り下ろすよりも袈裟斬りの方が刃筋も立ちやすく,実戦向きであると思われる。また殺傷能力も強く,鎖骨を砕き,その下の動脈まで刃が達すれば致命傷を与えることができる。実際,戊辰戦争などの刀傷の記録などを見ても袈裟斬りで斬られたものが多かったという記事をどこかで読んだ(たぶん雑誌「秘伝」)。
戦国時代ころまで鎧兜をつけて戦闘をしていたころは,兜が邪魔になって太刀を真っ直ぐ振り上げることなどできなかっただろうから,太刀を斜めに振り下ろす技法が中心だったと思われる。もともとは斜めに斬り下ろす方がメジャーな方法だったと想像される(そもそも甲冑をつけた闘いで,戦場で太刀で戦うことなど少なかったと思われるが)。江戸時代になって介者剣術から素肌剣術となり,正面打ちの重要性が増していったと思われるけれど,わざわざ難しい正面打ちを稽古するのは,いくぶん(精神的な意味も含めて)修行的な意味もあったのではないだろうか。
もちろん剣を右肩付近に立てて構える「八相の構え」などは多くの流派に存在しているし,示現流などは八相よりもさらに高く構える「蜻蛉の構え」が特徴となっているから,古流などでは袈裟斬りがちゃんと重要視されていると思われる。「剣道」の競技の発展が袈裟斬りの存在を薄くしていったのではないだろうか。
最近は時代劇が少ないので,「袈裟斬り」といわれてもピンとこない人が多くなってきている。袈裟斬りにも,「左袈裟斬り」(袈裟斬りの左右反対の斜め斬り)や「逆袈裟斬り」(袈裟斬りの軌道と逆に自分の左下から右斜め上に斬り上げる),この逆袈裟にも左右があったりして,なかなか分類がややこしい。私も恥ずかしながら,ときどきどちらがどちらだったのか迷うときがある。
ということで自分への覚え書きという意味も込めてここにまとめておく。
#映画「椿三十郎」のラストシーンの切り上げは左手の逆手で剣を抜いて斬り上げているけれど,あれは斜めに斬り上げているわけではないから袈裟斬りではないのだろう
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