2007年8月3日金曜日

話芸の粋にあこがれる

一時の熱気は去ったように思えるけれど,
落語のブームは静かに定着しつつあるようだ.
繁昌亭もずいぶんと人が入っているらしい.
落語の素晴らしさに目を向ける人が
ずいぶんと増えたことには間違いがないようだ.

実は私も最近,落語の素晴らしさについて良く考える.

以前私がいた職場の上司は,
水戸芸術館によく落語を聴きに行っていた.
水戸芸術館といえば,
あの吉田秀和氏が館長の有名なコンサートホールだから,
音楽も聴かずに(いや実際はその上司はクラシックファンで
良く音楽も聴きに行かれていたのだけれど)
なぜわざわざ落語なんかを...と当時は思っていた.

しかし,私も歳をとったのだろうか.
落語が好きになってしまった.
どうも落語の面白さがわかるには,
それなりの人生経験がいるらしい.

NHKラジオ第一で放送されている
「真打ち共演」や「上方演芸会」などは
良く車の運転中に耳にする.
話の内容が面白く,あまりの笑いでときに運転が危なくなるのだが(冗談です),なんといっても,その話術の素晴らしさに感心させられる.

最初囃子にのって噺家が舞台に登場した時は,
そろりそろりと話を進めていく.
会場とのコミュニケーションを図り,
噺家に興味を持ってもらうようにする.
そして徐々にアクセルを踏み,
会場をぐっと話に引き込んでいく.

その辺の呼吸といったらもうたまらない.
会場のお客さんが体を乗り出していくのが想像できるほどである.
会場は噺家の一挙手一投足に見入っている.

しかし,やはり話術には技量の差があるようだ.
ぱっと話に引き込まれてしまう噺家もいるけれど,
いつまでたってもノリが悪い噺家もいる.
内容が悪いわけではない.
どうも間が悪いのだ.
本当に良い噺家の話は,美しい音楽を聴くのに似ている.
間,緩急のリズム.
そうしたものが即興的に奏でられていく.


ところで,大阪大学でも,
毎年秋に開かれる吹田祭という大学祭には
噺家の方がいらっしゃってくださり,
無料で落語を聴くことができる.

実は昨年初めてこの落語会に行った.

演目は,

桂 春菜:七度きつね
桂 梅團治:寝床落語
桂 文珍: 二番煎じ

落語を生で聴くのは初めてだったのだけれど(講義室で聴くのだ),
あまりのおかしさに,涙を流しながら聴くことになった.
いやぁ,やっぱりライブは素晴らしい.
お客さんと一緒に雰囲気を作っていくということが良くわかる.
会場が熱気を帯びていく.

どの噺家さんもずいぶんと達者だったけれど
(プロに向かって失礼...)
やはり桂文珍さんの落語は非常に印象に残った.
なんというか間と緊張の具合が本当に心地よい.

ちょっとした冗談で会場を笑わせたあと,
ギュッと間を締めて会場が一気に緊張する.
次に文珍さんがなにをするのか,
注目が一身に集まる.

そんな緩急の自在さにすっかり参ってしまった.
文珍さんは落語界のスーパースターではあるけれど,
その通りの実力をお持ちなのだろう.それを垣間見ることができた.
これだったらお金を払って落語を観に行っても十分満足できる.
(当日はこれが無料で聴けたのだから本当に幸せであった)

文珍さんは,落語はジグソーパズルのようなもので,
足りないピースは客が思い思いに埋めていくものだ,と話されていた.

なるほど.

私も講義で学生たちに話しているけれど,
少しくらいはあの話術を身につけたいと思う.
(居眠りする学生が減るかな)
そしてジグソーパズルを提示して,
足りない部分を学生たちが各々考えてくれるような,
そんな講義をしてみたい.

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