2009年1月28日水曜日

「人生意気に感ず」はもう通用しない

昨日のニュースを見ていたら,
横浜の理数系専門の高校が来年から
開講することになり,すごい人気なんだそうである.
競争率が5倍以上とか...(うらやましい)

理工系が人気がないと言われて久しいけれど,
まだそうした人たちがいるということに救われる...

しかし,現実はかなり厳しい.
このニュースに関連して北海道のはこだて未来大学の
先生がインタビューをうけていらっしゃったのだけれど,
特に工学部の危機を訴えられていた.
確実に志望者は減り,学力が落ちているのだという.
これでは日本の行く末が案じられる.
私もそのことは感じている.
その先生は日常生活から家庭でも科学に関心をもつような
啓蒙の努力が必要なのだと話されていた.

家族の食卓で科学技術が話題になるなんてことになったら,
本当にすばらしいことなのだけれど,
しかし,それだけで工学部の希望者は
増えるのだろうかと疑ってしまう.

結局のところ,科学者や技術者に対する社会的待遇が悪い,
いや,はっきりいってしまえば,
給料も低いし,社会的にも尊敬の度合いが少ない,ということが
根本の原因なのだと思う.

今の学生(小,中,高校生も含めて)の価値観というのは,
いかに楽をして生活を楽しむかということに
重きを置いているように思う.
(もちろんそうでないひともいるだろうけど,
平均的に見て,ということである)

給料は高ければ高いほどいいけど,
つらい目はあいたくないから,ほどほどの給料がもらえればいい.
そのための努力は最低限のものとしたい.
というのが,最近の若い人たちの考え方なのではないだろうか.
(とうとう,私も「最近の若い人」という言い回しを使うように
なってしまったが...)

だから,大学の単位の取得もギリギリで行うことが,
良いこととされている.すくなくとも,周りからクレバーだと思われる.
彼らにとっては,「大学を卒業したという資格」が
一番大切なのであり,「知識,教養を身につける」ということは
重要視されていないのである(一体なんのための大学?)
もしも楽をしてそうしたものが身につくのであれば,
彼らも興味をもってくれるだろうけど,
残念ながら世の中はそうではないのだ.

社会に出てもそうした考え方の若者が多いと聞く.
つらい目にはあいたくないのだ.
そう考えると,以前放映されていた
TV番組「プロジェクトX」などは
理工系はこんなに大変ですよという宣伝だから,
若い人たちが敬遠しはじめるのもわかる.
(私なんて感動してみていたのだけれど...
たぶん若い人たちも感動はするのだろうけど,
自分はそうはなりたくないと思うのだろう)

どうせ理工系の勉強をするならば,
そして成績優秀でちょっと目先の利くものならば,
生涯安心な医者になりたいと思うのは
彼らにとっては当然の選択なのである.
それも,つらそうな外科や小児科,産婦人科を避けて.

理学部は,まだ数学や物理を純粋に
愛する人がいるから,その人たちがなんとか
なっているような気がする.
平均がさがったとしても,こうした分野は
ひとりの天才が世界を変えるのだから,
それでいいのかもしれない.

では,工学部はどうか?
大学時代は実験とレポートに追われ
暗い生活(あくまでもイメージです),
会社に入っても給料は低いし,
社会的にも尊敬はあまりされない.
これではやっぱり敬遠される.

工学には,工学の素晴らしさがある.
それをわかってもらえれば...という話も良く聞かれる.
しかし,それが通用するのは私のような
バブルぎりぎりの世代くらいまでなのではないだろうか.
現在の若者には根性論,理想論は通用しない
素晴らしくったって,
生活がつらければその道には進まないのである.

文系に比べ理工系の生涯賃金が平均として
5000万円低い,というリサーチ結果には
(なんと大阪大学の教授の研究!)
本当にめげる.
5000万円といえば,家が一軒建つのである.

私は正直,理工系の職業の平均賃金が上がれば
すべて解決するのではないかと思う.
たしかにこの不況下においては大変だろうけれど,
科学技術で日本が立国するのであれば,
社会としてそうした努力をすべきだと思う.

よく,文系の人が,
「理工系は好きなことをやってお金がもらえるんだから,
多少給料が低くたっていいじゃない」というようなことを
言っているのを聞くのだけれど,本当に腹が立つ.
(う~ん,この話はまた次の機会に)

私が転職するときに,お世話になった,
書家でもある合氣道のI先生より

「人生意気に感ず」

という書をいただいた.
私はそのとき大変感激したのだけれど,
今の若者にはどうもそれが通用しないようなのである.

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