2011年2月4日金曜日

SiC素子はSi-IGBTの天下を覆せるか

本日は,産総研の岩室様より,
Si-IGBTやSiC素子開発に関するご講演を
GCOEの活動の一環として,いただいた.

Si-IGBTがなぜここまで隆盛を誇っているのか,
その理由を,エポックメイキングな
IGBTの技術開発成果を交えながら
まずご紹介いただき,その後,
なぜ今,SiC素子なのか,
それをお話いただいた.

非常に面白かった.
岩室様の軽妙な語り口によって,
2時間にも達する講演時間が
実に短く感じられた.

講演を聴いて面白かったのは,
IGBTにユーザが飽き始めているのかも
しれないということ.
IGBTが市場に登場したのは1985年のこと.
東芝が世界に先駆けて製品化した.
その後25年が経ったが,Si-IGBTの
次の素子は未だ立ち上がってきていない.
しかし,Si素子の性能もそろそろ
物性値から制約される限界に達し始めている.
だから,SiC素子やGaN素子に期待する,
というのはわかるのだけれど,
25年もSi-IGBTを使ってきたので,次の素子を使いたい,
すなわち,単にユーザがSi-IGBTに飽きてきたのも,
SiC素子を期待する理由として十分成り立つ,
というところが興味深かった.

私が大学の研究室に所属した頃,
大学でもIGBTが使用されるようになっていて
(1989年頃だから,2nd Generationの頃だろう)
モールドされた大きな黒いブロックが
半導体素子だと聞かされて,
トランジスタやオペアンプしか見たことがなかった
私はずいぶんと奇妙に思ったものである.

その後,後輩がそのIGBTを用いて,
電流形の変換器を製作したのだけれど,
しばしば素子が破損していたのを思い出す.
あの頃,まだまだIGBTは壊れやすかったのだ.
当然,スナバもつけていたのだけれど.

その状況は,私が日本原子力研究所で
やはり電流形変換器を研究していた頃も
あまり変わっておらず,
試験をしているとIGBTが火を噴いて,
大きな音とともに回路が壊れるということも
何回か経験した.

それに比べると,現在大学で使用している
IGBTから素子は,ずいぶんと小さくなったし,
そしてなにより壊れなくなっている.
(とはいえ,ずいぶんと壊すのだけれど)
今日のご講演でもいわれていたのだけれど,
パワー素子は壊れないことが一番大切なのだ.

SiC素子が市場に登場するのも
もう間近である.
しかし,SiC素子はスイッチングが高速すぎて
過電圧が発生し,また寄生容量と通して
サージ電流が大きく流れてしまい,
破損にいたることが少なくないという.

昔のSi-IGBTと同じ状況だ.
SiC素子がいつかSi-IGBTの天下を覆すことが
できるだろうか.
300年続いた徳川の世を終わらせた
坂本竜馬のように,
25年続くこのSi-IGBT天下を
終わらせることができるだろうか.

早く新しい世の中を見てみたいものである.

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