異世界転生全盛期に、あえて『ハードSF』を読まずに死ねるか!
「最近,ハードSF作品は人気がないのではないか」という話を学生としていた。アイザック・アシモフやアーサー・C.クラーク,フィリップ・K・ディックといったSF作家の作品に触れている人は,私が学生時代に比べどんどん減っているのではないか,という話題である。
最近は純粋なSFというよりももっぱらファンタジー要素多めの作品が多い。魔法や超能力など都合の良い設定が多いようである。もちろん,超能力をネタにするにしても,筒井康隆の「七瀬シリーズ」や小松左京の「エスパイ」とか,設定がかたい作品もあるけれど,現代では最初から最強のチート能力があったり,ピンチになると新しい超能力が覚醒するなどのご都合主義のものが,漫画でもアニメでも多くなっている。特に流行りの異世界転生物語などはSFではなく全くのファンタジーである。同じ異世界転生でも半村良の「戦国自衛隊」などは設定がちゃんとしていて読みごたえがあり,ファンタジーとは大きく異なるといえるだろう。
なぜハードSFが不人気なのかと考えると,まず(1) 設定が難しいことが挙げられるだろう。その世界のルールを理解するために多くの背景となる科学的・技術的基盤を理解しなければならず,作品を楽しむためにそれなりの努力が必要となる。「SF」(アメリカではSci-Fi)とはもともとはScience Fictionの略なのだから,科学なしには成立しないのだから仕方がない。
次に(2) 気分直しにスカッとするような話が少なく哲学的なテーマが多いことだろう。ファンタジー系のように最初から主人公がチート能力で悪役をバッタバッタと倒していくような話や,あるいは復讐劇で最後に留飲を下げるような展開ではなく,ハードSFではSFだからしか描けない設定の中で哲学的なテーマを取り扱っているものが多い。それもサイバーパンクやディストピアなど暗い未来の設定ばかり。
例えば,アシモフの「われはロボット」とか,クラークの「幼年期の終わり」,そしてディックの「高い城の男」などの古典もあるし,日本でも,戦闘機が意識を持ち始める話の神林長平の「戦闘妖精・雪風」や,人間には虐殺を行う器官があるという設定の伊藤計劃の「虐殺器官」など,読み応えがあるものが多い。ただし,この「読み応え」こそが若者がハードSF作品を敬遠する原因になっているのではないかと思っているのである。
それでもハードSFを「読まずに死ねるか!」(by 内藤陳)とおススメしたい。科学に興味のある人,特に中高生に読んでもらって,もっともっと理工学を好きになって欲しい。そして,もっと多くの人に人間の明るい未来は科学技術なしでは成し遂げられないということを知って欲しいと思う。
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