2008年11月27日木曜日

勾玉シンクロニシティ

こうした忙しいときに重宝するのが
オーディオブックである.
朝晩の通勤時間に聴くことができる.
といっても,それほど多く聴いているわけではないが,
小林秀雄の講演集については,
このブログでも何回か紹介してきた.

今月号の「新潮」は小林秀雄の講演集のCDが
ついており,なんと未発表音源が含まれているというので,
早速購入し,車中で聴いた.

付属のCDはこれまで発表されている講演集のCDから
編纂されてもいるのだけど,
「勾玉について」という30分ほどの
講演が未発表のものであった.
相変わらずの小林節で,聴いていて
ついつい引き込まれる.
昭和42年の講演会というから,すでに小林秀雄も64歳くらい.
円熟の語り口である.

この講演の中では,
勾玉を購入したこと,
美術と本当に向き合うためには
購入するのも一つの方法だということ,
美術とはある時代に頂点を極めて
あとは凋落していくものだということ,
などと興味深いことが多々述べられている.

勾玉とは石が曲がっているから
「まがたま」と呼ばれるわけではないと述べている.
どうも「あおい玉」という意味らしい.
そして勾玉が作られ始めた当初では,
翡翠による勾玉が主であったと紹介している.
古代の日本では「あおい」ものが
珍重されていたとのこと.
翡翠は青ではないので「あお」とは「碧」なのかと思うが,
勾玉を大量に生産するようになって,
材料は翡翠から,水晶や瑪瑙にかわり,
姿も堕落していったという話である.
美術は,ある時代に精神性が頂点に達したときから
あとは凋落していくものだと,
バイオリンを例にとって述べている.
厳しい.
小林秀雄は,美術や音楽,骨董などにも
造詣が深かったから,それらについても
同様の考えを持っていたのだろうか.
だとしたら,現代の美術に対する彼の思いは
どのようなものだったろうか.

そんなことをつらつら考えながらいると,
先日,幼い娘が石の店(Stone Shopとでもいうのだろうか)で
青い勾玉を一粒買ってきた.
全くの偶然である.
しかし,私の身近に人生で初めて
勾玉というものが存在することになった.

それは小さな小さなターコイズだから,
色は本当に青い.
姿も大量生産品という感じで,
残念ながら美しいとは言えない.
それでも見ていると,いろいろと印象が変わってくる.

小林秀雄は講演の中で,
勾玉というかたちは,
人類が初めて美というものを考えたときに
思い浮かべる形なのかもしれない,と述べているが,
確かに見る角度によって次々と印象が変わるこの形状は,
胎児のようでもあり,犬歯のようでもあり,
見ていて飽きない.
もしもこれがもっと美しい形をしていて,
よく磨かれていたならば,やはり身近においておきたいと
思うだろう.
「本居宣長」などは勾玉を握って
執筆していたのだという.

新潮の本誌には,茂木健一郎氏と小林秀雄の孫にあたる
白州信哉氏の対談が掲載されており,
小林秀雄の講演の裏話を知ることができる.
小林秀雄の意外な努力がうかがえて
ますます彼が身近になった.

(明日は不在で更新はたぶんありません)

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