電気抵抗がゼロになる性質をもつ.
この状態を超電導という.
1986年の超電導フィーバー以来,
「超電導」という言葉もずいぶん一般に浸透した.
私はちょうど大学に入ったばかりで,
超電導技術が拓くという輝かしい未来に
少しトキメいていたことを懐かしく思い出す.
このときの超電導フィーバーは,
高温超電導物質が発見されたことによる.
それまで超電導状態は,いくつかの物質において
液体ヘリウム温度4.2K,すなわち-269℃程度まで
冷却することによってようやく得られるものであった.
そして,NbTi,Nb3Snなど超電導線材も
ようやく実用段階に達していたころである.
それに対して新しく発見された物質は,
液体窒素温度77K,すなわち-196℃程度で
超電導状態が実現できるというものだった.
実はこれは非常に画期的で,
液体ヘリウムは非常に高価で,
高級スコッチウィスキと同じような価格であるのに対し,
液体窒素は,ちょうどミネラルウォータの価格で済む.
そのために,コストが大幅に低減され,
ぐっとその適用先が広がると期待されたのである.
その後の話は...とこのくらいでやめておいて,
ところでこのSuperconductingの日本語表記には
「超電導」と「超伝導」の2種類があるのはご存じだろうか.
そしてその違いは?
物理現象的にいえば,抵抗がゼロになるのは
電気的な特性だけなので(熱抵抗はゼロにはならない),
「超電導」の方が正しい表記だと思われるのだけれど,
実際には,大学では「超伝導」の表記を用いることになっている.
これは実は文部科学省の指導によるものである.
一方,「超電導」の表記は経済産業省関係で
用いられることが多い.
したがって,産業界では「超電導」なのである.
電気学会は産業界に近いので「超電導」が
よく用いられ,物理学会では,「超伝導」なのである.
旧文部省では多分物理関係の大学の先生方の
影響もあって「超伝導」となったのだろうけど,
私は電気学会の教科書などで勉強していたためか
「超電導」の方が親しみがある.
私が以前勤めていた日本原子力研究所(以下,原研)には
「超電導磁石研究室」という課室があり,私も
そこに所属していた(正確に言うと兼任だった).
研究所に入所当時は,原研は科学技術庁の管轄下に
あったので,「超電導」の文字を使用していた.
しかし,科学技術庁は実質的には
文部省に吸収されてしまった.
(予算規模が全然違ったので)
だから,文部科学省に変更されたのちには,
急に「超伝導」の文字を使え,ということになった.
しかし,公的には「超電導磁石研究室」とあるから,
課室名の記載には「超電導」を用いて,
報告書には「超伝導」を用いるという大変混乱した
状態になったのである.
論文・報告書の場合は,電気学会に出す場合は「超電導」,
プラズマ・核融合学会では「超伝導」なんて
まるで二枚舌を使うように使い分けていたのである.
先にも書いたけれど,個人的には「超電導」の方が
実際の物理現象にふさわしく,親しみもあるので,
そちらを使いたい.
とはいえ,文科省管轄下の大学にいる限りは
「超伝導」を使うのである.
ちなみに,村上龍の小説は「超電導ナイトクラブ」である.
やっぱり「超電導」の方がかっこいい.
#余談だが,物理系は「レーザー」,「スピーカー」であるが,
工学系は「レーザ」,「スピーカ」と表記する.
「ー」の文字でさえも無駄を省こうとするのが
工学系の性なのだろうか(笑).
面白い記事、ありがとうございます。
返信削除ワタシ的には「超伝導」ですね。(わたしも元言原研ですが。。)