なにが違和感があったのかといえば,アクションシーンの人のやられかたである.見事にバレバレのワイヤーアクションであって,カンフー映画を見ているのかと思うくらいである.はっきりいってダサダサである.かっこ悪い.そして,これみよがしに飛び交う白い鳩がウザい.演出がキモい.この鳩を見てこの映画の監督がジョン・ウーであることを思い出した.彼の映画は私とは相性が悪いらしい.
いや,この映画はたぶん2000年くらいの作品だったと思うけれど,このころは香港のフィルム・ノワールなどと言われていて,その頃こんなアクションがはやっていたのかと気づきがっかりした.いまからみると,全然ダメである.フィクションすぎる.「ミッション:インポッシブル」はこのあとのシリーズの方がずっといい.
カンフーアクションは,「マトリックス」シリーズと「グリーディスティニー(Crouching Tiger, Hidden Dragon)」で頂点に達し,その後急速に陳腐化が進んでしまった,と思っている.いまとなっては,人が空を飛んでジャンプするシーンがあったりすると,あまりにもファンタジー過ぎて,すぐにひいちゃうくらいである.それほどカンフー映画は衰退した.
一方,ハリウッドの戦闘アクションは,いかにリアルに見えるかが主流になってきている(もちろん演出はあるのだけれど).「ジェイソン・ボーン」シリーズ,「ジョン・ウィック」シリーズ,そして同じトム・クルーズでも「ジャック・リーチャー」シリーズなどを見れば一目瞭然,実際にある格闘技をベースに,リアルっぽさを追求している(そして華麗さ,「痛そう」さを追求している).フィクションの最たるものの一つであるバットマンでさえ,KFMという格闘技を使っているのだ.そうしたものに目が慣れてしまった私達には,ワイヤーアクションを用いた戦闘シーンなんて白けて見えてしまうのも当然である.
しかし,しかしである.カンフー映画の復権を感じさせる佳作を観てしまった.それは,
「ファイナルマスター (師父,The final master)」(2015)
である.監督はシュ・ハオフォン.彼はあの「グランド・マスター」の脚本・武術顧問だったとのこと.どおりで,ストーリーは難解複雑.「グランド・マスター」同様わかりにくい.だから,ストーリーはあまり紹介できないけれど...とりあえずまとめると,
第二次世界大戦前,詠春拳を学んだ最後の熟達者である主人公が天津の町に出てきて,道場を開いて詠春拳を広めようとするのだけれど,弟子を育て天津の道場をいくつも破ることを条件に出される.主人公は天津で妻を娶り,弟子をとり,道場を開くためにいろいろと画策するのだけれど,そのうち軍を巻き込んだ策略に飲み込まれていくというお話.
まず,主人公の佇まいが本当に素晴らしい.リャオ・ファンという役者らしいが,ずいぶん武術を練習されたのだろうと推測される.かなり好印象.ファンになってしまった.調べてみるとベルリン国際映画祭で主演男優賞も受賞している実力派らしい.座っている姿,立っている姿がいい.野望を抱いているが,しかし優しく,そして過去を背負っている,そんな男を正面から演じきっている.
そして奥さん役の人がいい.社会的に差別されている美しい人という設定で,主人公に徐々に惹かれていくところがよく伝わってくる.素敵な女性だ.
他にも天津の武術界の長老やそれを引き継ぐ女性武道家など,芸達者な人たちが作品のクオリティを高めている.
そして特筆すべきはアクションである.たいへんにおもしろい殺陣で,実にリアリティがある.技が速すぎてよく見えなかったりするのだけれど,何度も見直す価値がある映像である.私がカンフー映画に期待するのは,「これだよ,これなんだよ」と指を指して言いたいアクションなのだ.
この映画では徒手格闘ではなく,武器術での戦いがメインなのだけれど,本当にいろいろな武器が出てきて,それを見ているだけで楽しい.そして興味深い.これを監修した人は(監督らしいけれど),よほど幅広い知識をもっていることは間違いない.ちなみに主人公は詠春拳なので八斬刀をメインに使っている.
この映画は,ストーリーよりもアクションを楽しむべき映画なのは間違いないのだけれど,それだけでなく,役者が醸し出している雰囲気,佇まいを楽しむ映画である.そして,カット,撮影法も正統派で,どのシーンも美術的に素晴らしいということもぜひ付け加えておきたい.
★個人的には5点満点中4.8点である(減点は,ストーリーの難しさと,弟子の恋人のダサさで-0.2点)
#舞台の天津というのは武術が盛んで,人々の気がかなり荒かったと言われている
0 件のコメント:
コメントを投稿