人に薦められて,NHKのテレビドラマ「Shrink ー精神科医ヨワイー」を観た。たいへん印象に残る良い作品だった。薦められたのが最終回の再放送のタイミングだったので,この作品の前2回を観ることはできなかった。しかし,第3話(最終回)を観ただけでも,「良いなぁ」と思う作品だった。
中村倫也演じる精神科医弱井と土屋太鳳演じるその看護婦が精神科に訪れた人たちに対応していくドラマ。第3回目は「境界性パーソナリティ症」の女性の話だった。女性は決して特別な人ではなく,私たちの日常の中でよく見かける性格の人である。パーソナリティ症のために自分を肯定できずいつも他人を振り回してしまい,周囲から人がいなくなってしまうことに悩んでいる。この女性を演じるのが白石聖。最近こうした難しい役を演じるのがめっきりうまくなった女優さんだと思っているのだけど,今回もどん底から少しずつ前向きになっていく過程をうまく演じられていて素晴らしかった(以前から応援しているのだ。「恐怖新聞」,「ガールガンレディ」という特殊な作品も主演している)。また彼女を支え,しかし共依存になっている男友達を細田佳央太が演じていてこれもまた良かった。細田佳央太は若いけれど実力ある俳優だ。期待している。
ということで女性が病院を訪れ,認知行動療法などで前向きになっていく過程が丁寧に描かれていてたいへん好感が持てた。もちろん,精神科医を演じる中村倫也は適役で,素晴らしかった。
そしてなにより素晴らしいのはこの作品自体が,患者にやさしく寄り添うように作られていることである。調べてみると,漫画が原作であるらしい。原作者はよほど取材をきっちりされたのだろうと思う。
こうした患者で大変なのは,まず「病院に連れていくことが難しい」ということである。日本では精神科に行くことにかなり偏見があって,「自分は病気ではない」「自分は大丈夫」といって拒否する人が多い。あるいは「元気がなくていけない」「怖くて行けない」という人も多い。このハードルが非常に高い。
次に「精神科医,カウンセラーの個人差が大きい」という問題がある。たとえ医師免許を持っていても,あるいは臨床心理士などの資格をもっていたとしても,その技量の差は大きいと感じる。また患者との相性があるため,「あわない」場合にはすぐに患者が拒否し始めてしまうのだ。
私はカウンセリングを受けることに(金銭的な問題と要する時間の問題を除いて)全く抵抗がなく,これまでに複数のカウンセラーに何度もカウンセリングを受けてきた。私自身は幸いまだ病気にはなっていないけれど,彼らと話すことで問題は整理されるし(特に問題がなくともカウンセリングは有益だし),話すこと自体が楽しい。またそのテクニックも勉強になる。私の場合,運が良かったためか,ほとんどのカウンセラーは良い人が多かったと思うけれど,複数の人の話を聞いているとみんながみんなそうでもないことに気づく。良い医師やカウンセラーにめぐりあうことは,その人の将来を決める大きな要因なのだと私は思っているけれど,現状では運でしかない。もちろん評判を調べるのは大切だけれど。
このShrinkという作品を観て,ひとりでも多くの人が病院やカウンセリングに相談に行くようになることを願っている。この作品にはそうした人たちの背中をそっと押すようなやさしさがあった。モチベーションを与えるというだけでもこの作品は意味が大きい。少しでも偏見が減って相談にいくことへのハードルが下がると良いと思う。
#アメリカでは,できる人はカウンセリングを受けるものなのだ。マフィアのボスでさえ精神分析医に相談に行く。そんなコメディ映画もあるくらいだ。「Analyze Me!」マフィアのボスをロバート・デニーロが演じている
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