今日9月25日は,グレン・グールドの
誕生日なのだそうである.
昨晩,ラジオを聞いて知った.
と言っても彼はすでにこの世になく,
もう亡くなってから25年以上過ぎている.
しかし,どうだろう.
彼の評価と人気は彼が死んだ後も
ますます高くなっているような気がする.
その証拠に,毎年発売される
グールドの録音.
もちろん再発売が多いのだけれど,
リマスタリングをしたり,
ジャケットを当時のものにするなどの
ちょっとした工夫がされて,
またCDショップの棚に並ぶのである.
私は別にグールドの収集家でもなく,
したがって,彼の録音を沢山所有している
わけでもないのだけれど,それでも,
グールドの棚(多くのCDショップに
彼のコーナーが設けられている)には,
ついつい手を伸ばしてしまうのである.
20年くらい前,そうして私が手を伸ばしたCDが
彼の2度目の録音の「ゴルドベルク変奏曲」だった.
学生時代流行した
「ゲーデル・エッシャー・バッハ」を
(一部だけだけど)読んで,バッハのカノンに
興味をもった私は,とりあえずCDショップの
クラシックコーナーに足を運んだのだった.
どの曲が良いかなんて全くわからないから,
ほとんど「ジャケ買い」である.
それで,なぜかけだるそうに椅子に腰かけている
ひとりのオヤジ(それが彼だったのだけれど),
その姿に心惹かれて,
さんざん悩んだ末にそのCDを購入したのだった.
初めてプレーヤ(その頃はCDラジカセ)で聴いた時は
本当に感動したなぁ.
非常にゆっくりなテンポで開始されるアリア.
その変奏が繰り返されていくうちに,
いつのまにか曲に引き込まれてしまう.
途中の変奏曲でテンポが急に速くなって,
そこからはあっという間に時間が過ぎていく.
ピアノ曲にこんなに集中できるなんて,
自分でも驚いたくらい.
それに,彼の歌い声.
スピーカから彼の鼻歌が聞こえてきた時は,
霊の声でも録音されていたのかと思った.
でも,それもいつしか大事なこの録音の要素となった.
とにかく,このCDがクラシックを聴くきっかけの
ひとつになったことは間違いない.
そして,このCDを初めに手に取ったことの幸運を
心から喜びたいのである.
(やっぱり聴いていて退屈な録音もあるし,
そうしたCDを買っていたら,今ここまで
クラシック音楽に興味は湧かなかったかもしれない)
そして今年.
カラヤンとのベートーベン・ピアノ協奏曲3番の
録音が初めて正規に発売された.
(海賊版はあったらしい)
やっぱり,ついつい(笑)購入してしまった.
ジャケットにはハンサムなカラヤンとともに,
美少年という言葉が全くふさわしいグールド
(彼は若い頃は天使と形容されるほど
美しい外見だったのだ.
いつのまにか頭も薄くなり,
見た目は怪しいオヤジになったのだけれど)
の写真が載っている(相変わらずジャケ買い?).
なぜいままで発売されなかったのだろう,と
思うくらいに素敵な演奏だった.
グールドのベートーベンというと,
普通と違う,少しおかしな演奏が多いのだけれど,
(テンポなど自由に弾くので,奇妙に思うのだけれど,
それはそれなりに聴かせる演奏ではあります)
このピアノ協奏曲は正統派で,
美しく,若々しい.そして知的だ.
録音はモノラルだけれど,そんなことは問題にならない.
彼の若いころの録音だけれど,
彼の才能は十分に感じることができると思う.
これは今年,一番聴いたCDになりそうである.
学生時代,彼に興味を持った私は,
カナダ大使館で開催された
グールド展を見に東京赤坂まで出かけていった.
しかし,なにを私は勘違いしていたのか,
展覧会は前日で終了していた.
それを尋ねた私の顔があまりに
がっかりしていたのか,
見かねた大使館の人が,
展覧会のパンフレットを私にくれた.
それは,いまでも私の宝物となっている.
しかし,そのときに見損ねた
彼のあの有名な演奏会用の椅子,
そして夏でもつけていたという
マフラーと手袋,
そうしたものをテレビや雑誌で目にするたびに,
あのとき,一日を間違ったことを
今でも残念に思うのである.
いつか,いつかカナダにいったときに,
ぜひ彼の所有していた品々を見てみたい.
そして彼が身にまとっていた空気を
感じてみたいと思っているのである.
2008年9月25日木曜日
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