2007年10月19日金曜日

実力があっても性格が悪い人と,性格が良くても実力のない人

昨日,先生方とのミーティングでの話題のひとつに,
企業の就職試験では学力は重視されず,
おもにコミュニケーション力の欠如によって,
学生たちが落とされている
ということがあった.

それでは,企業は大学に対して,
学生に学力をつけさせることを期待していないのか,
という議論になるのだが,それはひとまず脇に置いておいて,
ここでは,逆になぜそこまでコミュニケーション力が
重視されるか
,ということを考えてみたい.

ちょっと前,NHKの「サラリーマン NEO」という番組の中で
(放映が終わってしまって寂しい.シーズン3に期待)
ロッテ マリーンズ監督のボビー・バレンタイン氏に
質問をして答えてもらうというコーナー
「教えて Mr.バレンタイン」を見る機会があった.

その中で,

「実力があっても性格の悪い選手と,
性格が良くても実力が足りない選手,
監督だったらどちらを採用しますか?」


という質問があった.
私だったらどちらだろう,と思いながら
画面を見てバレンタイン監督の回答を待った.

「性格が良くても実力が足りない選手を採用します」

という答えに正直驚いた.
プロ野球という実力がすべてという世界だから,
実力のある選手を採用するというのではないかと
思っていたのだ.

彼はこう説明していた.

「実力があっても性格が悪ければチームとして問題が出る.
性格を直すのは難しいけれど,
チームとして選手の力を伸ばすことは比較的可能である.
だから性格が良い選手を採用するのです」
(詳細うろ覚え)

この説明は,企業の就職試験において
コミュニケーション力を重視するという理由に
全く当てはまるのではないか,と思った.

結局のところ,大学で行っている研究が,
直接企業の活動に資するということは少ない.
したがって,そこで得られた即戦力的な実力はあまり重視しない.

それよりも企業というチームに入ったのち,
その学生がどれだけ伸びるか,そのポテンシャルに注目する.
そして,そのポテンシャルを伸ばすことができるかどうかは,
その学生のコミュニケーション力に大きく依存する.
だからこそ,コミュニケーション力を重要視するのだ.

いくら即戦力の実力があっても,
その後に不安が残る.
コミュニケーション力が不足していれば,
入社後の指導やチーム作業に問題が生じるのだ.

ただし,バレンタイン氏はこうもいっていた.

「しかし,実力が不足している選手も
基礎力をもっていることが前提だけれどね」

結局,企業に対して果たすべき大学の役割は
ここにあるのではないだろうか.
研究室で行う専門的な研究も,結局のところ
研究のかんどころをつかむための手段でしかない.
(最先端の研究を題材に
概念と知識と技術を身につけるのである.
なんという贅沢な教育方法だろう)
将来の学生たちが実力を伸ばしていくことに
資するための基礎学力の養成
それが大学が社会に対して果たす責任のひとつである.
企業のみなさんが口を酸っぱくして
基礎学力,基礎学力というのもわかる.

しかし,現在の卒業生に基礎学力がついているかどうかは
はなはだ疑問である.
そもそも学生たちは基礎学力が必要だ,などとは
本心から思っていないのではないか.
一体この先,どうするつもりなのだろうと心配してしまう.

4 件のコメント:

  1. 三浦先生の大学の後輩です。

    「学力を重視せず、コミュニケーション力の欠如で。。。」ということについて一言。

    コミュニケーションの定義のニュアンスが少し違うかもしれませんが...

    採用面談では、専門的な知識(=学力?)はあることを前提として、論理的に考えられるかどうか(基礎的学力?)を重視しています。特に一流大学の理系の学生にはこれを求めています。ですので、面接では、ロジカルにコミュニケーションできるかをはかっています。(私の勤めているメーカの研究所の例ですが)

    そういえば、少し前に、ドイツの大学教授から聞いたのですが、その大学では、学部の講義でも、口頭試験をして単位を出すかどうか決めるそうです。

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  2. コメント有難うございます.私の存じ上げている方でしょうか?

    さて,コメントの通り面接のときの重要なポイントは論理性のある受け答えだと思います.実は,こうした訓練を行う機会が大学ではあまりありません.研究室に入って少し教員にしごかれる程度です.どうしたらよいものか,いろいろ考えております.

    また,ドイツの大学のお話,興味深いです.学部の講義でも口頭試験を行うというのはいいですね.教員の負担は少し重くなりますが,面と向かって話せば,学生の理解度というのは確かに一目瞭然ですものね.

    考えさせられるコメント,有難うございました.

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  3. >私の存じ上げている方でしょうか?
    先日(2008/11/20)、訪問させていただいたものです。古いブログのコメントにもちゃんと答えていただけるのですね。

    ドイツの大学の先生は一人5分の口頭試問で、丸2日はつぶれるそうです。その大学はDiploma(修士相当)を取得できるのは50%といっていました。だからこそできるのかもしれませんね。

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  4. >先日(2008/11/20)、訪問させていただいたものです

    そうでしたか.コメントどうも有難うございます.

    ドイツの大学についてでは,博士課程の最終試験でも面白い口頭試問の話を聞いたことがあります.すばらしいと思う反面,教員側の苦労を思うと溜息が出てしまうのも正直なところです...

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