2008年10月3日金曜日

BITTER LIFE

今週もあっという間に終わってしまった.
(いや仕事的には終わってはいないのだけれど)
こんな感じで年末まで走り続けなければならないのだろうか.
10月で,すでに忙しさは師走という印象である.

忙しいのでなかなか読書やDVD鑑賞の時間が
取れないのが残念である.
せっかくの秋の夜長をそうした趣味の時間で
ゆっくりと過ごしたいものである.
これって,ずいぶんな贅沢なのだろうか.

とはいえ,先週の土曜日に1冊の短編集を
読み終えるだけの時間を持つことができた.
実は息子の運動会の待ち時間に読んだのである.

運動会における私の役割は,
お弁当を家族で食べるための場所取りと,
息子が出場するときだけのビデオ撮影である.
弁当を食べる場所は,別にトラックの近くである
必要はないから(むしろ離れていた方が人口密度が
低くてうれしい),グラウンドの端の方に,
敷物と折り畳みテーブルと折り畳み椅子を並べて
場所を陣取った.
あくまでも他人に迷惑のかからないようにである.

一方,ビデオ撮影の時はとにかく息子に近づく.
事前に配布されたプログラムと
息子の演技の場所の資料を手に,
場内のアナウンスを聞きながら出番となれば
すごすごと良き撮影場所にビデオを持って乗り込んでいく.
どうせ息子を映すのも各競技せいぜい5分もかからない.
それだけの時間,じっとカメラを構えていればよいのだ.
残りの時間は,ゆっくりと陣取った場所で
お茶を飲み飲み,本を開いていれば良かった.
他の家族は昼食の時間に到着することになっていたので,
人が密集しているトラック周囲から一人離れて,
ディレクターチェアにゆったり涼しく座っていた.
我ながらなんと至福の時だろうと思った.

読んだ小説は,レイモンド・カーヴァー
「必要になったら電話をかけて」という短編集である.
これが大人の人生の苦味を感じさせる小説で,
心に深く染入った.

この本は,図書館に行った際にたまたま手に取ったもので,
まぁ村上春樹の訳で,以前に読んだ「翻訳夜話」にも
紹介されていた作家だったので,あまり気にせずに
借りたのだった.
そして,本も新書サイズでそれほど厚くなく,
運動会の時間つぶしにはもってこいと思っていたのだ.

しかし,読んでみるとこれが滋味あふれる内容である.
ミステリーでもなく,ファンタジーでもない.
強いて言えば,恋愛ものである.
しかし,恋愛といっても,恋愛の終焉であり,
夫婦が別れる話が多い.
ふたりはやり直そうとするけれど,
もはや取り返しがつかないところまで傷ついてしまっていて,
もう別れることによってしかその絶望の淵から戻れないのである.
この「すでに終わってしまった関係」というのが,
これらの作品集のひとつの主題になっている.

う~ん,大人の小説だ.
学生の頃だったら,ここまで感じいることはなかったに違いない.
苦い苦い人生の一局面を題材としており,
登場人物たちにハッピーエンドは訪れない.
しかし,それこそが現実であり,小説であっても,
それがこの世界を表しているということを
残念ではあるけれど再認識してしまう,そんな作品である.

実は,この短編集は作者が亡くなった後に見つかった
作品を集めたものであり,完璧主義者だった彼が発表しなかった
ものたちだから,彼の作品の中ではAクラスに入らないものだという.
そうしたことを訳者の村上春樹も最後の解題において述べている.

確かに,どうもそこかしこに不格好なところもある作品たちである.
しかし,そこから立ちあがってくる世界は非常に魅力的に感じられた.
それがレイモンド・カーヴァーの世界であるというのならば,
私は迷わず彼のファンになるだろう.

それを確かめるために,彼の生前に刊行された作品を
次に読みたいと思う.
幸いにして,この作品を最後にして彼の全集は,
村上春樹の訳によってすべて刊行されている.
(一部,なにかの台本が残っているらしいが)
それらの作品たちはたぶん私が読むのを
わくわくして待っているのである.
早くそれらを手に取ってあげたい.
そんな気持ちにさせてくれた,最近珍しい小説であった.


#当日,あまりのおもしろさに
小説を読むことに気を取られて
自分が陽に焼けていることに気付かなかった.
夕方風呂に入るときには,真っ赤になった首が
いたくお湯にしみてつらかった.

0 件のコメント:

コメントを投稿

アイアンマン2

 「アイアンマン」を観た あとに 「アイアンマン2」(2010年) を観た。「アイアンマン」がヒット作となり,続編が作られた。だいたい続編というのは面白さがいくぶん減るのだけれど,この続編は1作目に負けないくらい面白かった。 敵役を演じるのがなんといってもミッキー・ロークなのであ...