人は変性意識(トランス)状態にあるとき,暗示を受けやすくなる.催眠術はその最たる例だけれど,催眠術をかけられたときばかりではなく,私たちはしょっちゅうトランスに入っている.
音楽に気分が良くなっているとき,あるいは集中して本を読んでいるとき,あるいは友人や恋人との会話に夢中になっているとき,私たちはトランスに入っている.ふと目にしたテレビCMに意識をとられるとき,一瞬でトランスに入れられているのである.
スポーツや武道においてトランスに入るのは一種の必然的行為だから,スポーツ選手や武道家は催眠術にかかりやすいのではないかと思っている.なぜなら極度の集中とリラックスをするために,自己暗示をかける必要があるからだ.
一方,私たちが最もトランスに入りやすい状況のひとつが映画館であるとも考えている.映画が始まるとだんだんにホールが暗くなり,みなリラックスしはじめ,スクリーンに集中することになる.そのうち音響効果で大きな音がリアルに身近に聞こえてくれば,もう映画の中の世界に一気に引きずり込まれ,トランス状態の出来上がりである.
それだったら個人で暗い部屋でDVDを観るのもそんなに変わらないのではないだろうか,むしろ他人がいない分集中できるのではないか,とも考えられるのだけれど,私はやはり映画館の方がトランスに入りやすいのではないかと思っている.実は他人がいることで,そしてその多くがトランスに入っていることで,自分も感化されてトランスに入りやすいのではないかと思うのである.すなわち集団催眠である.事実映画自体ではなく,他の観客につられて自分が笑っていることも少なくない.
映画を見て映画館を出る時には,自分がヒーロー・ヒロインになったような余韻をひきずっている.それこそがトランスに入っている証拠である.トランス状態下でいろんなメッセージを映画から受け取っているのだろう.映画をみるということは,そのトランス状態を味わうことなのだ.だから中毒性があるのも仕方がないのかもしれない.
2017年4月10日月曜日
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