2007年12月5日水曜日

次世代パワー半導体素子が開くパワエレの未来

昨日は,東京 品川で開かれた
パワー半導体素子に関するセミナーに参加してきた.

参加費がそこそこ高かったので,
参加者が200名以上いたことに驚いた.
パワー半導体素子への業界の関心は高いのだ.

パワー半導体素子というのは,
情報通信などに用いられる半導体とは異なり,
主に電力の制御,すなわちモータ駆動や家電の電源,
電力系統への応用などに用いられる
制御可能なパワー(電力)が大きい素子である.

素子としては,パワートランジスタ,サイリスタ,
MOSFET,GTO,IGBT,IGCT,IEGTなどがある.
この応用を研究するのがパワーエレクトロニクス(パワエレ)であり,
私もこの分野に従事している.

パワエレ機器は,
電力を交流から直流に変換したり,
電圧や電流の大きさを制御したり,
周波数を変換したりする.

直流から交流に変換する回路をインバータといい,
電力をうまく制御し電気機器や回路の効率を向上させることから
省エネには不可欠の技術である.
もちろんCO2削減にも大いに役立つ.
例えば,太陽光発電や風力発電,燃料電池など
新エネルギーだってパワエレ技術がなければ
うまく使うことはできないのだ.

皆さんの身近にある携帯電話の充電器や
ノートPCのアダプタなども交流から低圧の直流に変換する
パワエレ機器なのである(ちょっと見,黒い箱でしかないけど).

エアコン,IHクッキングヒータ,掃除機,冷蔵庫,
炊飯器,蛍光灯,テレビなど,
とにかくありとあらゆる家電に使用されている.
もちろん電気鉄道もそうだし,最近では自動車にも
非常に多くのパワエレ機器が積まれている.
私たちの生活はパワエレ機器なくしては成り立たないところまで来ている.

だから市場としても大変魅力的で,
自動車分野のパワエレの需要が10%/年程度の
高成長率で伸びているのは当然として,
それを上回る民生分野(つまり家電など)の成長率が
その用途の裾野の広さを示している.
これらの市場をメーカは見逃すはずはないのだ.

パワエレの歴史はまだ短いが
(トランジスタが発明されて60年も経っていない!),
ここまで世界に普及し,非常に多くの研究がなされてきた.
まだまだ研究することは山ほどある.

しかし,残念なことに効率向上という面では,
なかなか革新的な技術が開発されていないという現状がある.
それは基本的には回路の効率が,使用される素子の性能によって
決まってしまうというところに問題がある.
特に使用するパワー半導体素子の損失の大きさや,
スイッチングするときの周波数など,
素子の性能によって効率が制限されているのだ.

現在,パワー半導体素子はシリコンSiを用いた素子が大部分である.
しかし,その性能はSiの物性から予測される限界値に
すでに達しようとしている.
そこで,新しい材料を用いた素子に注目が集まっているのだ.

昨日のセミナーでもSiCやGaNといった次世代素子の話題が多かった.
もしこれらの素子が実現されれば,
変換器(回路)のエネルギー変換効率は99%に
肉薄するだろうと言われている.
そしてそれらの素子が低価格となり,普及するようになったら
またパワエレの世界は変わるのは間違いない.

電気機器はさらに小さく,制御はさらに高速に,
そして損失はほとんどないような回路が実現されるにちがいない.
もしインバータの効率が1%も向上したら,
この日本にあるインバータの数,容量を考えれば,
すぐに原発何基分かの電力が節約できることが計算できるだろう.
それほどインパクトがある話なのだ.

SiC素子などはかなり実用が近い段階まで
来ているように感じられた.
一方で,省エネ・CO2削減という観点から
パワエレ技術への期待も高まっている.
次世代パワー半導体素子が
次の技術革命を起こすのもそう遠くはないと感じている.

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