新しい理論を考えた.
新しい制御法を提案した.
新しいシミュレーションを行った.
こうしたときに大事なのは,
その理論や制御法,シミュレーションの限界を知ることである.
その理論が成り立つ範囲はどこまでか.
制御法が有効なのはどういう条件の時か.
無効になるのはどういう時か.
シミュレーション結果が正しいのはどういう条件下か.
その近似が成り立たなくなるのはどういうときか.
こうしたことを考えることは,非常に大切だ.
このことを学生に話すとき,いつもある漫画のエピソードを紹介する.
それは,
白土三平,「カムイ伝」
である.私が生まれる前から連載が始まり,
40年以上たった今でも未完の大作である.
「カムイ伝」において,忍者,侍,百姓,非人たちを通して
描かれた社会的な問題は,今もなお生々しく感じられる.
学生のみなさんで読んだことのある人は少ないだろうけれど,
ぜひおススメの漫画である.
さて,その忍者カムイには必殺技がいくつかあるのだが,
その一つが「飯綱落とし」と呼ばれる技である.
これはプロレスでいうバックドロップとかジャーマンスープレックスに
類似した技で,相手の背面に抱きつき相手を頭から地面,
あるいは木の幹などに叩きつける技である.
忍者だから木から木へと飛び移ったりしているうちに,
相手の背後にまわりこみ,そのまま地面にまっさかさま.
相手の頭をクッションに自分は助かるという絶技である.
あるとき「むささび姉弟」がカムイを追っていた.
まず弟とカムイが対決.
カムイの飯綱落としにより弟は木の幹に頭を叩きつけられ,
知能に障害をきたしてしまう...
姉は弟の敵をとるために飯綱落としを破る技を思いつき
カムイに挑む.
(姉は本当は知能障害になってしまった弟の面倒をみたかったのだが,
忍者の長に対決を迫られ,泣く泣く対決,というストーリー)
姉が思いついた飯綱落としを破る方法は
カムイが背面に回ったときに,自分の身体を前から刀で貫いて
そのままカムイも串刺しにするという壮絶な技.
しかし,カムイにはその技も通用しなかった.
カムイは着物の下に鎖かたびらを着ていたのだ.
驚く姉に,カムイは
「忍者というものは技を編み出した時に,
自分の技を破る技も考えるものだ」
(セリフうろ覚え)
と悲しく言う.
なんたる非情な教え.
姉はカムイの教えを活かすこともなく絶命する...
と,ここまでずいぶん長くなってしまったが,
カムイ同様,私たち研究者・技術者も何か方法を思いついた時には
その限界についても同時に思いをめぐらすべきなのである.
そのことを言いたかった.
抵抗がR,インダクタンスがL,キャパシタンスがCで
単純に表わされる電気回路の計算も,
あくまでも実回路素子がこれらの集中定数で近似できる範囲でしか成り立たない.
電圧・電流が高周波になれば回路は,また違った様相を示すことになる.
そうした限界を知ることが研究者として非常に重要なのだと思う.
そのことをこのカムイのエピソードは教えてくれる.
漫画だって,いろいろ教訓があるのだ.
このエピソードを読んで以来,
私はなにかアイデアを思いつくと,
いつもこのカムイの教えを思い出すのだ.
#ちなみに殺された姉の死体の前を
弟はヘラヘラと笑いながら歩き去っていくのである.
カムイ伝は本当に救いのない話ばかりなのである.
2007年7月26日木曜日
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