私は煙草を全く吸わない.
生まれてこの方,火のついた煙草を
くわえたことは一度もない.
(これについてはヘビースモーカーだった父に
深く感謝している)
もちろん仕事やプライベートでの付き合いでは
煙草を吸う人がいるので,
別にそれが嫌だとは思わないのだけれど,
煙草を吸う人は何が楽しいのかと実は心の中では思っている.お金をつぎ込んでは,それがまさに煙となって消えていく.
それで残るものは,次の煙草への中毒と
自分の肺を始めとする内臓への害毒と
そして周囲の人たちの健康への甚大な影響である.
しかし,煙をくゆらす姿はどこか素敵だ.
映画のシーンで見ると,実にうまそうに吸っている.
またあの火をつけて口にくわえるまでの間が
人になにかを思わせる.
ついつい私も一本吸いたくなってしまう,
最近もそう思わせる映画を観た.
"SMOKE" (1995,Wayne Wang,日,独,米)
以前にも紹介したけれど,
これはポール・オースターの
"オーギー・レンのクリスマス・ストーリー"
という短編をもとにいろいろな話を合わせて,
一本の映画にしたものである(彼は脚本も書いている).
恵比寿ガーデンシネマではロングランを続けたというが,
さもありなん,名画座で人気が出そうな
渋く,心温まる物語である.
(恵比寿ガーデンシネマ1周年記念で製作されたという)
劇的な展開はないけれど,
丁寧に描かれたいくつかの小さなエピソードを
積み重ねていく手法で映画は微妙に歩を進め,
人々に少しだけ変化が起きていく.
涙が出るような感動はないけれど,
観終わったあとじっと自分の中に残る暖かさを
大切にしたいような映画である.
内容については触れないけれど,
ハーヴェイ・カイテル演じるタバコ屋のオヤジが
とにかく魅力的だ.
あの顔でニヤリとされるとこちらの口元も思わず上がる.
彼がいなければこの映画の魅力の
80%は失われてしまうだろう.
またウィリアム・ハートの小説家ポールも素敵だ.
ポール・オースターは大の野球ファンで知られるが,
映画の中でもテレビの野球中継をわざわざ野球帽をかぶって
観戦するシーンがある.
本人もそうなのかなと想像してしまうところである.
また,この人の笑顔がいい.
そのほかにも魅力的な登場人物満載なのだけれど,
実はというか,やはりというか,大きな役割を与えられているのが
煙草,葉巻,そしてそれらの煙である.
登場人物は実にうまそうに吸っている.
煙草の先から立つ煙のゆらめき・はかなさが,
この映画のストーリーを暗示しているように思える.
あんな風にカッコよく吸えるのならば,
煙草も悪くないと思ってしまった.
クリスマスにもこの話を紹介したけれど,
クリスマスの話は最後にしか出てこず,
季節に関わらず楽しめるハートウォーミングな佳作である.
おススメの一本である.
#原文は確か村上春樹と柴田元幸による
「翻訳夜話」の中に載っていたはず.
二人による翻訳比べがされています.
#本年はこれが最後の更新かもしれません.
次は1月5日の予定です.
(気が向いたらまた書くかもしれませんが)
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