2008年12月15日月曜日

電力系統の心臓部

今日は,博士前期課程1年の講義・実習に
お邪魔して,関西電力の中央給電指令所を
見学させていただいた.

最新の技術が集約されたコントロールルームで,
信頼度の高さが,正面の大きなディスプレイから
感じられるようなデザインだった.

このコントロールルームが関西電力の系統全体
(ひいては,関西電力以西の60Hzの系統全体)の
電力の需要と供給を制御しているのである.

電力の問題は,貯蔵が困難であるということ.
大規模な電力貯蔵は,いまのところ
揚水発電所でしか実現できていない.
それだって,系統全体の消費電力から見れば
ずいぶんと少ないのである.

貯蔵ができないということは,
系統全体で発電所で発電する電力量と
負荷で消費する電力量を常にバランスさせなければ
ならないということになる.

では,アンバランスが生じるとどうなるのか.
発電量が消費量を上回れば,
系統全体の周波数は高くなり,
その逆であれば周波数は低くなる.

そうなると系統の周波数は59.9Hzとか,
60.1Hzとか,60Hzから外れた値に変動してしまう.
どうも+/-0.2Hzくらいを越えて外れると,
いろいろな工場から電力会社に苦情がくるらしい.
したがって,電力会社は,少なくとも59.8Hz~60.2Hzくらいの
間に周波数を制御しなければならないことになる.
(実際は+/-0.1Hz程度にほとんど収まっているとのこと)

電力会社は,系統の発電量はもちろん把握できる.
しかし,負荷電力がどのくらいなのか,
電力会社は測定できないのである.
各顧客の電力計のデータを実時間で集計する
わけにいかないから(送配電系統における損失もあるし).

ではどうするか.
実は周波数を見て発電量を調整するのである.
周波数が高くなれば発電量を減少させ,
低くなれば発電量を増加させる.
それが電力会社の仕事のひとつなのである.

もちろん,実際には本日見学させていただいた
高度なシステムが制御しており,
発電量を増加するにしても,
もっとも経済性が高い発電所を使用したり(ELD),
あるいは応答が速い発電所を使用したり(AFC),
はたまた調整力を残すようにしたり,と
非常に複雑な制御をコンピュータの力を借りながら
実現している.

しかし,時には人間の判断によって,
発電量を直接制御する場合もあるという.
急激な負荷の増加時など,
通常時の制御則では間に合わないときには,
人間が発電量をキーボードから打ち込む.
そうした緊急の場合には
結局は人間の判断なのだ.
これは,

「主権者とは例外状況について決定するものをいう」

というある政治学者の言葉を思い出させる.

働いている現場を見学させていただいたが,
少人数で,こうした大役についている方々の
重責を思うと,とても自分では務められないのではないかと思う.

事故時の復旧訓練のためのシミュレータも
見学させていただき,
まさにここは電力系統の心臓部との印象を持った.

今後の不透明な電力需給状況を思えば,
電力会社の方々のご苦労はさらに重くなると推測されるけれど,
その方々が私たちの生活を支えているのである.
あとは全てをお願いするしかない.

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