昨日の輪講で,Kronという人が話題になった.
Kronとは誰か.
電気機器に不可欠なテンソルを用いた
統一解析法を提案した人である.
ということをすっかり私は忘れていた.
テキストに出てきたKronさんとは誰だ,
という話になったとき,
伊瀬先生が,
「電気機器の解析法の父みたいな人であり,
彼は若いころ世界中のあちこちを旅行して,
人間はみな同じだと感得して,
電気機器の解析においても統一理論を
提案したのだよ」というような
ご紹介をされたのである.
解析法を提案した人だということは
すぐに思い出したけれど,
若いころの世界旅行の話については
全く知らなかった.
昨晩,伊瀬先生がその話が載っている教科書を
教えてくれた.
"大学講義 電気・機械エネルギー変換工学"
宮入庄太,丸善
である.
実は私もこの本は持っている.
というばかりか大学時代はこれで
勉強したはずである.
ラグランジュ演算子とか,
磁気随伴エネルギーとか.
全然,そんな話が載っていたとは
覚えていない.
(そもそも知らない?)
先生に教えてもらった個所を見ると,
確かにKronさんが写真入りで紹介されている.
彼はハンガリー生まれ.
"感受性豊かな青年時代の中近東への放浪の旅"が
この仕事をなしとげる動機となったと書いてある.
1926年,300ドルをもって,
小諸サモア諸島,フィジー群島,オーストラリア,
フィリピン,タイ,ビルマ,エジプトなどを
2年の間にジャンクや漁船に便乗して回ったのだという.
"People and places are the same all the world over"
と彼は述懐し,当時の原住民の素朴と人情のこまやかさに
感謝しているという.
こうした旅の途中,原住民の午睡の時間を利用して,
数学書をひもとき,
瞑想にふけり構想を練っていたということである.
"人種にはそれぞれ違った容貌や風習があるとはいえ,
何か生れながらの共通性がある.
種々雑多な電気機械にも,これと同じように
共通の何かがあるのではないだろうか"
とひらめきを得て,テンソル解析法の電気工学への
導入を成し遂げた,と紹介されている.
素晴らしい.
Kronさんはもちろん素晴らしいが,
このKronさんを2ページも割いて紹介している
宮入庄太先生も素晴らしい.
こうやって,電気の知識にも血肉が通ってくる.
彼の業績は,現在電気機器の解析に不可欠な,
座標変換(alpha-beta変換, dq変換)などに
つながっている.
もちろん私も多用している.
この素晴らしい仕事の陰には
こんな物語があったとは,
全然知らなかった.
しかし,これは工学が
まだ文系などの学問に近かった
古き良き時代の話として済んでしまう話だろうか.
いや,現代においても
いろいろな示唆に富む話であると私は思う.
2008年5月21日水曜日
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