2008年6月10日火曜日

電気回路とシミュレーション

以前,私が大学生で研究室に配属されたばかりの
4年生のころ,そのころ役職につかれていた
深尾 正先生に呼ばれて,
「なぜ君は電気系の専攻を選んだのかな」
と尋ねられた.

ひとりひとり学生が呼ばれて
深尾先生に1対1でインタビューを受けるのだから
ずいぶんと緊張した覚えがある.

「高校時代に,電気回路の授業を受けたときに,
問題を洗練した数学のテクニックで
解くことができることができることに
感動したからです」

などと答えたような気がする.
今思うと,どうしてあんなインタビューを
されていたのか不思議に思う.
あの頃はバブルのころで,
電気系もまだまだ人気もあっただろうに...

さて,その時答えた考えは今も変わらない.
すなわち電気回路の良さは,
解析的におおむね結果が求められることであると思う.

これは私が前の職場で超伝導コイルの開発に
携わったときにも強く感じた.
コイルの設計においては,
電気回路的な振る舞いだけでなく,
電磁気,応力,熱などを複合的に
検討することが求められる.

この場合,応力解析などは
3Dの有限要素法(FEM)などのソフトウェアを用いて
行うのだけれど,
実験などを行ってみても,
どこまでその結果があっているのか,
疑問に思うことも多かった.

熱などの解析もFEMを用いて
苦労して行う割に,
ずいぶんと大雑把な予想しか
得ることができない.

機械系の解析というのは,
50%,100%違うのは当たり前などと聞くと,
それは大変と思ってしまう.
(と同時に研究開発の余地がまだまだあるなぁ,
と思うのだけれど)

では電気回路の世界はどうか,といわれると,
たぶん通常の回路では,シミュレーション結果と
実験結果の違いは10%以内ではないかと思う.
そこまで洗練された世界なのである.

だからアイデア勝負の世界となっている.
あるいは論文に回路方式と制御方式が掲載されれば,
だれでもすぐにその効果を確かめることができる.
そうした分野なのである.

これが実世界においては,
特殊な方に含まれるということが,
上述のとおり,いまでははっきりとわかる.
電気回路は予測可能な世界なのである.

もちろん,ミクロやナノの振る舞い,
あるいはアークやプラズマの振る舞いなどは,
いまだに解析が難しい分野である.
そこまで難しくなくとも,
熱と力と電磁界の連成解析とか,
渦電流と熱の連成解析とか,
そうしたところは現在ホットな話題となっている.
電気は簡単とひとくくりにはできないのは
承知の上である.

しかし,電気回路として描くことができるものは,
かなりの精度でシミュレーションによる
予測が可能なのである.
そうした洗練された世界に魅力を感じる.
それだけ競争が激しく大変なのだけれども.

電力はエネルギーの中でも最も洗練された形のひとつである.
その理由として,その変換の容易さ,
安全性などがあげられるけれども,
このようにシミュレーションによって
その振る舞いが予測可能であるということも,
大きな要因のひとつであると思う.

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