以前,私が前の職場にいた頃に,
職場の月刊誌の座談会に
参加する機会があった.
そのときに,私の今後の夢は,
ふたつの装置のファースト・プラズマを
見ることです.
と答えたことを覚えている.
ファースト・プラズマとは,
核融合試験装置において,
装置完成後に初めて真空容器内に
着火されたプラズマのことである.
そして私が言っていた
ふたつのファースト・プラズマとは,
ひとつは日本の核融合試験装置JT-60の
超伝導改造後の装置のものであり,
もうひとつは,現在フランス
カダラッシュで建設中の
国際熱核融合実験炉ITERのものである.
転職してしまった今となっては,
その夢は語るべき資格もないのだけれど,
それだけ,ファースト・プラズマというのは,
装置を設計・建設する者にとっては
特別な意味をもつのである.
先日の7/13に,韓国において建設中であった
KSTAR (Korean Superconducting Tokamak
Advanced Research)というトカマク型核融合試験装置が
完成し,ファースト・プラズマの着火に
成功したというニュースがあった.
KSTARのプロジェクトが開始されたのは,
たぶん私が以前の職場に就職したころだったから,
1996年のことだろうか.
今年は2008年だから,ファースト・プラズマの
着火まで,なんとおよそ12年の歳月を要したことになる.
KSTARは確かに挑戦的な装置であった.
すべてのコイルが超伝導だし,
それらの導体の部材も先進的なものを使っている.
いろいろな先進的な技術を取り入れて製作されている.
しかし,なによりも一番大変だっただろうと
思われることは,韓国にはそれまで
大型の核融合試験装置がなかったということ,
すなわち建設の経験がなかったということだろう.
こうした大型装置の設計・製作においては
経験がものをいう.
私も少し,JT-60の超伝導化計画に携わったことがあるが,
過去の経験の蓄積が現場になければ,
その設計・製作検討作業は,とてつもなく
困難なものになることがその当時も容易に想像できた.
韓国はアメリカ,プリンストンのプラズマ物理研究所の
協力を得て,装置を設計し,
それから超伝導コイルをはじめとする
数々の技術開発を行ったのである.
いろいろと苦労があったとは耳にしている.
当初は2002~2003年位がファースト・プラズマの予定であったものが,
今日まで延びてしまったのである.
どれだけのマンパワー,コストが費やされたことだろうか.
しかし,核融合開発は国家の威信をかけたプロジェクトになっている.
韓国はITERプロジェクトにも参加しており,
国内のプロジェクトで失敗したとなれば,
到底面目がなくなる.
このプロジェクトの成功は必須だったのである.
KSTARのファースト・プラズマは,
少しでも核融合に関わるものとして
心よりお祝いしたい.
しかし,これからは今まで以上の困難が
待ち受けているのだろうと思うし,
それは,KSTARの装置研究者・技術者たちも
覚悟しているだろうと思う.
まだ単なるファースト・プラズマなのである.
定格磁場も,設計プラズマ電流も
ずっと遠い値である.
その遠いゴールを目指して,これから
少しずつ少しずつ歩を進めていかなければならないのだ.
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