2008年7月10日木曜日

快適性と省エネ

歌手のマドンナが来日したとき,

"暖められた便座が恋しくて,
また来日した"

などとインタビューで答えているのを見て,
思わず笑ってしまった.
確かに,これほどまで便座が暖まっている
トイレが普及している国は,
日本くらいのものなのかもしれない.

この便座を温める機能には,
それなりに電力を使っている.
全国でその電力を積算したら,
結構な値になるだろう.
これを省エネしたら,とは
すぐに思いつくのだが,
人間は快適さに慣れるとそれがなかなか
実行できないという話をしたい.

大阪大学の辻教授のグループでは,
以前,家庭内にエネルギー消費情報提供システム
(つまり,どれだけどの電気機器が
電力を消費しているか,が表示される機械)を
設置することによって,どれだけ
省エネ行動が促進されるかという研究を
行っている.

設置された家庭では,
それなりにテレビやホットカーペットなどの
電気機器の使用を控えたり,
非使用時にはコンセントを抜くなどして,
省エネ行動が誘発されることがわかった.
それはそれで素晴らしい結果なのだけれど,
便座のコンセントについては,
面白い結果が得られている.

最初,情報提供システムが設置されてしばらくは
高機能便座(ヒーターや温水シャワー)の
コンセントは夜中や外出時に抜くと行動が見られた.
しかし,数週間後にはコンセントが抜かれている時間が
減少してしまったのである(1).

論文中では,面倒くささが原因ではないかとしている.
しかし,そうだろうかと私は疑っている.
測定がなされた1~3月の寒い時期に,
便座が冷えていることに住民は耐えられなかったのではないか,
と思うのである.

実は我が家でも,省エネのために便座のヒーターを
切っていた時期がある.
しかし,結局は家族の不満が高まり
ヒーターを常時つけておくことになってしまった.
結局のところ,一度経験してしまった快適さを
人間は忘れづらいのである.
なんといったって,マドンナがたまに来日して,
便座のことをインタビューに答えているくらいなんだから.

こう考えると,快適さや便利さを犠牲にして
省エネを行うというのは,大きな困難が伴うということが
実感を伴って容易に予想されるのである.

省エネ,省エネといってはいても,
生活が不便になってしまうのであれば,
その省エネ行動は長続きしないのである.

快適性,便利性を無駄にしないで省エネを行う.
それが解決法である.
そしてそれを実現するのが,
パワーエレクトロニクスをはじめとする技術なのである.
(たとえば,松下電器は瞬間的に便座を温めるヒーターを
用いた製品を開発し,省エネを実現している)
人間は,一度挙げた生活レベルを下げることは
なかなかできないものなのである.


(1)上野他:「実測に基づく住宅用エネルギー消費情報システムによる省エネルギー効果(その2)」,エネルギー・資源,Vol.25, pp.51, 2006.

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